「GYU-YA VILLA」は、氷見牛を主とした地産地消食材を使用した鉄板レストラン&バー(レストラン棟)と一棟貸のゲストルーム(宿泊棟)・サウナ・テントを併設した分棟型のオーベルジュであり、この施設を訪れる来客に対して氷見の食と文化の満喫と非日常的な体験を提供することを目指しました。
本プロジェクトにおいては、敷地周囲をアパート(3F)やJA氷見市(5F)など高さのある建物が取り囲むというまちなか特有の環境の中で、来客のプライバシーに配慮しながらも十分に寛げる空間づくりが求められました。そこで、板塀で囲まれた「中庭」や急勾配屋根で覆われた「テラス」など閉じられた場をつくり、そこに向かって大きな開口部を設けるという空間構成を設計に採り入れて、視線の制御と開放感を両立させる「閉じながら開く」デザインを実現しました。
レストラン棟は、落ち着きのある「隠れ家的空間」をコンセプトに、外部はダーク色のガルバリウム鋼板で凛とした落ち着きを表現しながらもエントランス部分には無垢材を使用し来客をやさしく迎え入れる設えとしました。内部は、外部に呼応したダークトーンの仕上げの中に、氷見杉の格子壁・格子天井や氷見山桜の耳付無垢カウンターを設けることで、無機質なだけではない「静けさ」と目で感じる自然素材の「豊かさ」が共存する上質な空間としました。
閉じられた空間の中で外との繋がりを感じられる中庭は、氷見産の石や砂利を用いた枯山水として氷見の海を表現しており、鉄板調理を行うシェフの動作と共に、食事の時間に華を添えてくれます。
一方ゲストルーム棟は、ダーク色のガルバリウム鋼板でレストラン棟と外観上の調和を図っていますが、内部は一転して白い塗り壁と無垢材の自然素材による優しく清潔感のある「癒し空間」となっています。コンパクトな面積ながらワンルーム構成で広々と過ごせるように工夫しており、高い勾配天井と畳敷きのラウンジピット(人が寄りかかりやすく昇降も楽な段差)によって開放的でありながら重心の低い寛ぎの場を創出しました。また玄関のない低い軒先の開口とエントランステラスからのアプローチにより、非日常の期待感と特別感を演出しています。
エントランステラスは急勾配の屋根により閉ざされた印象としながら、地窓開口とトップライト(天窓)により適度な安心感と解放感が共存する半屋外空間であり、竹と苔で里山を表現した坪庭や夜空の星を眺めながらゆったりと過ごすことができます。
外構・植栽計画においては、レストラン棟では「海」ゲストルーム棟では「里山」というコンセプトの対比をつくり、間接照明等のライティングにより、昼間と夜間との質の違う「非日常性」を表現しました。
場の移り変わりや時の移ろいによるやわらかな「変化」がもたらす様々な体験が、来客の滞在時間をより豊かにしてくれることでしょう。